製造業の売上における人件費率は何%が目安?改善方法や計算式を紹介

製造業において「人件費」は製品コストに大きく影響を与える重要な費目のひとつです。
原材料費や設備投資に比べて変動しにくく、売上が落ち込んだときでも発生し続ける“固定費”であるため、人件費の管理は経営の安定性・収益性を大きく左右します。
特に近年では、最低賃金の上昇、採用難、人材確保の競争激化といった背景から、「人件費率が高止まりしている」「利益が出にくい体質になっている」といった悩みを抱える製造業が増えています。
本記事では、製造業における人件費率の定義や計算方法、業種別の目安、そして改善に向けた具体策について、実践的な視点で解説していきます。
1.人件費率とは?基本的な定義と計算式
人件費率とは、売上高に対して人件費がどれだけの割合を占めているかを示す経営指標です。
計算式は、
人件費率(%)= 人件費 ÷ 売上高 × 100
です。
「人件費」には以下が含まれます
- 基本給・時間外手当
- 賞与(年2回等)
- 各種手当(通勤、資格、家族など)
- 法定福利費(社会保険料・雇用保険など)
- 法定外福利費(住宅手当、慶弔金、社食補助など)
人件費率は、経営効率を測るうえで基本的かつ非常に重要な指標であり、「人をどの程度の売上で活かせているか」のバロメーターになります。
2.製造業における人件費率の目安
製造業の人件費率は、業種・規模・生産方式によって異なりますが、一般的には以下のような水準が参考値となります。
製造業 業種 | 人件費率の目安 |
---|---|
金属加工・機械部品製造 | 15〜20% |
食品製造 | 20〜25% |
プラスチック・樹脂成形 | 18〜23% |
電子部品・精密機器 | 10〜18% |
自動車関連部品 | 15〜22% |
労働集約型製造業(縫製・アッセンブリ等) | 25〜30% |
生産が機械化・自動化されている業種では人件費率は低くなる傾向があり、一方で手作業や属人的な技術が多い工程では高めになる傾向があります。

同じ業種であっても、製品の付加価値や製造方法によって大きく異なりますので、上記はあくまでも参考としてください。
3.人件費率が高いことによるリスク
人件費率が高くなることで、企業の経営にはさまざまな弊害が出てきます。
営業利益の圧迫
人件費が固定費としてのしかかるため、売上が少しでも落ち込むと一気に利益が出にくくなります。
値下げ競争に耐えられない
原価に占める人件費の割合が高いと、取引先からの値下げ要請に応じる余地がなくなります。
成長投資への制限
人件費が重荷になり、設備投資や研究開発費に回せる余剰資金がなくなります。
財務の柔軟性が低下
キャッシュフローが圧迫され、借入や運転資金の調達に制限がかかる場合もあります。
4.人件費率を改善するための具体的施策5選
人件費率の改善=「リストラ」ではありません。
むしろ「人材の生産性を最大限に引き出す仕組みづくり」によって、持続可能な改善を図ることが理想です。
作業の標準化と見える化
- 工程ごとの手順書の整備、動画マニュアルの活用
- 作業時間や手戻りの記録を可視化
- 作業者ごとの作業速度・品質の平準化
これにより、同じ作業を誰がやっても一定の成果が出せる状態にします。
自動化・省人化の投資
- ピッキング作業や検査工程の自動化
- 工場内搬送のAGV化(無人搬送)
- IoT導入による稼働分析や予防保全
初期投資はかかりますが、長期的に人件費の削減や品質安定に繋がります。
人材の多能工化・柔軟配置
- 複数工程をこなせる多能工を育成
- 現場の繁閑に応じた柔軟なシフト編成
- 資格取得支援などを通じて現場力の向上
教育投資は一見コストですが、中長期的には大きなコストパフォーマンスとなります。
非コア業務のアウトソーシング
- 梱包、清掃、事務処理などの外注化
- 繁忙期のみの派遣社員の活用
- 在宅による一部業務のリモート化
固定人員を減らすことで、閑散期のコスト負担を抑えられます。
高付加価値な商品・サービスへのシフト
- 設計支援や試作、メンテナンスなど周辺サービスを追加
- 他社が対応しづらい特殊仕様・短納期・小ロット対応
- OEMから自社ブランド製品への展開
利益率が高くなれば、人件費が同じでも人件費率は自然と下がります。
5.改善成功事例
当社に人件費削減事例を2つご紹介しようと思います。
【導入事例】勤務シフトの見直しで、生産性40%向上と人件費削減を実現!
【課題】「朝は全員出勤」が、実は非効率の原因でした
千葉県のある中小製造業様では、20名のパート従業員全員が、午前8時に一斉出勤するという長年の慣習がありました。 しかし、当社のコンサルタントが現場の稼働状況を詳しく分析したところ、始業直後の時間帯に作業員が過剰となり、手待ち時間が発生していることが明らかになりました。
【改善策】出勤時間を2つに分ける、シンプルな「シフト制」をご提案
そこで、全員一律の出勤体制を見直し、勤務時間を2パターンに分けるご提案をしました。
- 10名: 従来通り午前8時に出勤
- 10名: 出勤時間を2時間ずらし、午前10時に出勤
【成果】生産性が1.4倍に向上し、コスト削減も達成!
このシンプルなシフト変更により、驚くべき成果が生まれました。
- 生産性40%向上: 必要な時間帯に必要な人数の従業員を配置できるようになったことで、作業の無駄がなくなり、工場全体の生産量が40%も向上しました。
- 人件費の削減: 生産性が上がったことで、従業員一人当たりの加工数量が増加しました。これにより、人件費の効率化、すなわちコスト削減に繋がりました。
【導入事例】生産ラインのレイアウト変更で、人件費20%削減を実現!
【課題】「ボトルネック」が原因で、10名中2名の人員が余剰に
東京都のある食品製造業様では、10名で稼働する生産ラインがありました。しかし、当社のコンサルタントが現場を分析したところ、「ボトルネック(生産能力が最も低い工程)」が作業全体の流れを滞らせ、結果として2名の人員が常に手待ち状態(余剰)となっていることが判明しました。
【改善策】作業の流れを根本から見直す「レイアウト変更」
人員配置の問題点は、このボトルネックを考慮できていなかった点にありました。そこで、作業の流れを根本から見直し、モノの動きや従業員の動線を最適化する「レイアウト変更」をご提案し、実施しました。
【成果】余剰人員を有効活用し、工程単体で20%の人件費削減を達成!
レイアウト変更によってボトルネックが解消され、生産ラインは8名で効率的に稼働できるようになりました。
- 余剰人員を応援へ: 余った2名は解雇するのではなく、人手が不足していた他の工程の支援に回すことができました。
- コスト削減: 元の工程は、生産性を維持したまま8名で運営できるようになったため、実質的に人件費の20%削減に成功。会社全体の生産性向上にも大きく貢献しました。
6.まとめ
製造業における人件費率は、経営効率や利益体質を示す非常に重要な指標です。
ただし、単に人件費を削るのではなく、「人を活かして、利益を生む仕組みを整える」ことが本質的な改善となります。
まずは自社の人件費率を把握し、何がボトルネックになっているのかを明確にしましょう。
そのうえで、現場改革・人材育成・自動化・高付加価値化といった多面的な施策を組み合わせることで、持続的に利益を生み出せる体制へと変革していくことが求められます。